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品と知性を提案できるスタイリストへ。次世代に伝えたい才田とおるのブランディング論

過度に異性を意識しすぎると、品がなくなりますよね。

そんな印象的なフレーズから始まった今回のインタビュー。

「同性にも褒められるスタイル」をテーマに、上質なベーシックスタイルに少しだけファッション性を織り交ぜたヘアスタイルを得意とする、いつくし/そそ のオーナー兼ディレクター 才田とおる さん。

品と知性をしっかりと提案していきたいと話す才田さんが考える「ヘアスタイルの考え方」と「スタイリストのあり方」についてお話を伺ってきました。

ーー「同性に褒められるスタイル」とは具体的にどういったスタイルなのでしょうか?

どうと言われると一言では表現しにくいのですが、逆に過度に異性を意識したスタイルって世の中にたくさん存在していると思いませんか?

「とにかくモテたい!」という意識が全面的に出ていると言いましょうか。女性であれば「セクシーにみられたい!」と思うがあまりオーバーになりすぎてしまったり、フェミニンの度を超えすぎて・・・というケースも見受けられます。

これはヘタスタイルだけではなく、洋服もそうかもしれませんが「相手にどうみられたいか」を意識するばかりに、お客様の魅力を引き出せていないケースもあると思うんです。

人の根底にあるのは「人にどう見られたいか」よりも「自分がどう見られたいか」という部分。私はその部分をとても大切に考えています。

また、自分だったらどういう美容室に行くかな?と主観的に考えてみたときに、モテ髪・トレンドのヘアスタイルを得意としているヘアサロンがあったとしても「このお店は、人気だけど20代前半のハイテンションなヘアスタイルが得意だから、自分には合わない気がするなぁ」「お任せにしたらハードなツーブロックにされちゃうのかなぁ。」とか、考えてしまうんですよね。

そうなると、そのヘアサロンに自分のスタイルを任せにくくなりますよね。

いまは、大手ポータルサイトやInstagramを中心に集客を目的とした「スタイル特化型サロン」が増えていると思います。

それが悪いわけではなく、そういったお店を渡り歩いた結果「どんなスタイルが私に合うんだろう」「トレンドよりも自分に合ったスタイルを見つけたい」と悩んでいお客様がいらっしゃっていただけるように、いつくし/そそ では「品と知性をもったスタイル提案」=「同性に褒められるスタイル提案」を打ち出しています。

ーーお店のブランディングは、集客はもちろんお客様にとっても最初の接点になるので重要ということですね。

そうですね。

私の考えとしては「売りをスタイルにする」というのは少しずれていると思っていて、「うちのサロンの売りは、ショートです!(ボブです!)」というのは、ナンセンスだなと感じてしまいます。

「(女性の)ショート」と言っても、その中には男性にモテるショート、ファッション性のあるショート、エッジのあるキレキレのショート、メンズライクなかっこいいショートなど、様々なショートカットスタイルが存在します。

「ショートが得意」とは、何を指しているのか。

「ショート得意!」なスタイリストは五万といます。

「テイスト」と「テンション」をしっかり打ち出して、バリエーションを提案していくのが良いと私は考えています。

「スタイルに属性を加える」というイメージでしょうか。

「ロック(属性)なショート(スタイル)」

とても分かりやすいですよね。

私たち、いつくし/そそ の場合は「品と知性」をスタイルに加えていく部分を意識し、スタイルの中に透明感や清潔感を残すことを大切にしています。

ーー才田さんのお客様層は「大人なイメージ」がありますが、いかがですか?

私に限らず いつくし/そそ のお客様もそうですが、そういう雰囲気のスタイルにしたい(なりたい)というお客様が来店される、というのが正しいですね。

お客様に寄り添うという意味ではもちろんなのですが、いつくし/そそ では「品と知性」を打ち出しているので、新規のお客様でも奇抜なスタイルを求めて来店されることはほとんどないと思います。

サロンとして「ボブが得意です!」「カラーが得意なサロンです!」のような売りのスタイルを積極的に打ち出しているわけではありませんが、お客様は「品と知性」を求めて来店されています。

これは、私たちのブランディングが成功していると言えるのではないでしょうか。

また、2回目以降のお客様は「お任せで」というオーダーが多く、品と知性という属性(方向性)は共通認識が取れているケースがほとんどです。

その上で、お客様のイメージやライフスタイルに合わせてスタイルを提案しています。

「色々なヘアサロンを渡り歩き、色々な提案を受けてきたけど、ちょっと違くなってきた・・・」というお客様に、安心して来店していただきたいですね。

ーーやはり、来店したされたお客様との方向性が合致しているのは強みになりますね。

はい。ただ、注意も必要です。

ペルソナ(お客様像)を絞れば絞るほど個性が出て強みも増します。しかし、サロンと一緒に歳を重ねていくお客様はほとんどいなくなってしまうかもしれません。洋服と一緒で、年齢や環境に合わせて求めていくものが変わっていくものですからね。

また、スタッフの労働環境にも影響してきます。

例えば、10代や20代前半の比較的若いお客様に大人気のスタイルを提案するサロンがあるとしましょう。若くてお洒落で憧れてしまうスタイリストのようなスタイルになりたくて、たくさんのお客様が来店することでしょう。

しかし、サロンスタッフは歳を重ねていきますが、来店されるお客様の年齢層は変わることはないですよね。

結果、お客様との話についていけなくなってきたり、お客様との価値観の共有もしにくくなってしまうのではないでしょうか。

そして、従業員も「もう、このお店では働けないかな・・・。」となることだって容易に想像できます。

スタイルの限定は重要なポイントですが、スタイリストたちが苦しんでしまうケースもあるかもしれません。

ーー過度な店舗ブランディングには、経営側も注意が必要ということでしょうか?

はい、そうですね。

あとは、同じスタイルをスピーディに量産することだけを目的にしているサロンは特に注意だと考えています。

スピードや効率化を求めると、どうしても施術内容を短くしていく必要があります。

例えば、今までなら何度もハサミを入れ丁寧に作っていた丸みのあるフォルムもどんどん簡略化されていくことでしょう。

セニングひとつ取っても、パーセント(スキ率)を上げることでバサッとカットするか、低いパーセントで徐々にカットしていくかで完成度は変わってきます。

スピーディさを求めて作業が適当になるというのは問題外としても、こだわれるポイントをこだわらなくなるんです。

こういった状況には「差別化を履き違えるな」と強く感じますね。

そして、私たち美容師の世界は、技術提供のサービス業ではなく「教育産業」だと考えています。

自分たちの技術を誰に伝えていくかという職人の世界であり、技術伝承していくことがとても大切なはずなんです。

そうでなければ、業界としての技術力低下にもつながるのではないでしょうか。

極論、東京都心部よりも地方のスタイリストの方がベースカットは上手かもしれませんね。都心部は、スピードを重視するあまり本質的な技術を疎かにし、誤魔化すテクニックが上達してしまっているかもしれないと危惧しています。

ーースタイルに特化しすぎても、幅広になっても良くない。難しい課題です。

もちろん、特化型サロンが悪いわけでもないし、幅広く展開しているサロンが悪いわけでもありません。あくまで、各々のサロンの戦略でしかありませんので。

銀座や表参道のような競合エリアにお店を構え、この1店舗で必死に戦うのか、フラグシップショップとしてブランドイメージを高めるために運営するのかでお店の雰囲気もガラッと変わってくるでしょう。

戦略は様々あるにせよ、カットを量産しないとまわらないサロンは、正直もったいないなと私は思っています。

時短で切り始めると、どうしても「こだわり」を忘れてしまいがちになってしまうので「”技術のこだわり”の墓場」になるエリアもきっとあるでしょうし、お店としてそうなってはいけないとも思います。

私が考える店舗戦略のポイントは「フリーマーケット」ではなく「百貨店」になるということ。

サロンのスタイルを「販売商品」としましょう。

その時に、色々な人が思い思いに色々な商品を販売する「フリーマーケット」では、店舗としては絶対に強みを出せません。

「百貨店」のようにブランドイメージをしっかりと持って、その中で自由に販売をするということが大切です。

そして、販売商品のテーマを絞りすぎるとダメですし、広過ぎても何屋かわからなくなる。

この塩梅が重要ですよね。

さらに言えば、販売する商品も「今売れてるもの」を置くか「次に売れるもの」を置くかで、そのお店のセンスが問われると思うんです。

いつくし/そそ は、「品と知性」というブランド理念をもって、お客様の年齢に合わせてオーダーメイドでスタイルを提案できるヘアサロンでありたいと考えています。

ーー最後に、次世代のスタイリストに向けてコメントをお願いします。

感性と知性は磨けるもの。技術だけではなく、そう言った部分も成長していってほしいと思っています。そして、完成度の高いスタイルを作っていきましょう。

近年SNSが一般的に使われるようになり、依存しすぎている傾向があるかなとも感じています。

実は、私のサロンに勤めるアシスタントや若いスタイリストには、他の美容師のアカウントは極力見ないでと伝えています。

自分が売れるために得られる情報は必死に得ようとしているのは理解しているのですが、フォロワーの数、いいね数がバズったことで、それが「正しい」と思われがちなんですよね。

私自身は、いつまでも「自分は、スタイリストとしてトレンドを発信する側にいたい」と考えています。

同業からの受信というのは、結局その同業の二番煎じ、三番煎じになるということを意識してほしいですね。

自分から発信できる力を、技術を磨いてほしいと願っています。

いつくし/そそ 才田とおる

クリーンで上質なベーシックスタイルに、少しだけファッション性を含ませた髪作りを得意とする中目黒のへアサロン「いつくし」・2021年に東日本橋・馬喰町にオープンした「そそ」のオーナー兼ディレクター。

福井県福井市生まれ。ハリウッド美容専門学校 通信課程に入学。国家試験合格後、都内1店舗を経て独立。業界誌、一般ファッション誌等の撮影、外部ヘアメイク、セミナー、コンテスト審査員等の活動も行なう。

ショートやボブが得意。目指すものは同性に褒められるスタイル。

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