norm華井英樹

好きだからこそ成長できる。norm代表の樺井 英樹が考えるカラーリストのあり方とヘアサロンの形。

アッシュやマットなど寒色系の発色にこだわったヘアカラー剤「throw」の開発に携わったカラーリスト 樺井 英樹さん。現在は、渋谷のヘアサロン「norm(ノーム)」の代表兼カラーリストとして活動されています。

ノームは、お客様1名1名に寄り添い丁寧なカウンセリングを行うことで「似合う色×髪質」に合わせた施術を大切にしているだけでなく「お客様はもちろん、スタッフに対しても”空間体験価値”を高める店づくりをしていきたいです」と話す樺井さん。

カラーリストとして美容業界に携わり続けている樺井さんの体験や、オーナーとしてこれから目指すヘアサロンの形についてお話を伺ってきました。

「カラーの楽しさ」に目覚めカラーリストの道へ

ーーカラーリストを目指したきっかけについて教えてください。

専門学校でパーソナルカラーの授業を受けていたのですが、その時に「これは面白い!」と思いカラーに興味を持ちました。

そして「カラーの楽しさを伝えたり、この技術を活かせる職業は何だろうか」と考えたどり着いたのがカラーリストという職業です。

専門学校卒業後は東京に出ることを決めていたので、どうせなら都内で一番有名なカラーリストのお店で働きたいと思いカキモトアームズに就職しました。

当時は、カラーリスト制度が整っているサロンも少なかったですし、今でもアシスタントのことをカラーリストと呼ぶこともあり、実は誰でも名乗れる肩書きでもあったんです。

しかし、海外ではカッターとカラーリストのように役割をわけていることが当たり前だったので、その仕組みを取り入れようとしていたカキモトアームズにはカラーリスト希望の同期もたくさんいました。

60人くらいの同期の中に、カラーリストは20名くらいはいたと思います。

ーーアシスタント時代からカラーリストとしての技術を学んでいたのですか?

はい。カラーのカリキュラムというものがあり、約2年間アシスタントとしてカラーの基礎について学びました。

カリキュラムにカットが入っていないので、スタイリストよりもデビューが早く若いうちから自分のお客様を持つことができたのでとても良い経験になりましたね。

当時はスタイリストとしてデビューするまでに5年くらいかかっていたので、デビューだけでいえばカラーリストの方が断然早かったんです。基礎的な技術ももちろん重要ですが、お客様とのやりとりから生まれる現場での経験値を積むことができ、成長にもつながったと思っています。

その後は、カラーリストとしてさらにハングリー精神を養うために「 Belle(ベル)」 へ移りました。

カラーのスペシャリストとしての役割

ーーカットをしないカラーのスペシャリストとして、サロンではどのような働き方をしていたのでしょうか。

おっしゃる通り「カラーのスペシャリスト」であり、基本的にはカットはしません。

カキモトアームズでは、自分を目指してカラーのために来店してくれる客様もいましたし、カッターとカラーリストが分かれていたのでカット&カラーのお客様がいらっしゃれば自動的に自分のお客様として割り当てられることも多かったと思います。

逆に、ベルではスタイリストがカットもカラーも行っていました。一般的には、このようなヘアサロンがほとんどだと思います。

なので、カラーリストとしてお客様をつけないといけなかったので、より自分の主張や差別化のポイントをアピールする必要がありました。その為に、お客様の色(髪・目・肌・洋服など全ての視覚情報)を見る目を養い、お客様の希望の色を叶えつつ、似合わせていくという技術を取得していきました。

ーーカラーリストとして、苦悩などはありましたか?

苦悩というわけではありませんが、スペシャリストとしての存在価値をお客様やサロン内でどうやって示していくか、という部分は気にしていたと思います。

僕を指名してくれるお客様、カラーリストというネームに惹かれて指名してくれるお客様、どちらもいらっしゃいますがお客様の期待値はどんどん上がっていきます。

そして、その期待値を超える技術を身につける必要がありました。

その中で僕が目指したのは「お客様に寄り添うカラーリスト」です。

お客様の希望に対して「できない」はありません。なので、お客様の悩みを解決できるカラーリストというポジションを確立させていたきました。

ーースタイリストとカラーリストの共存についてどう思われますか?

もちろん、そこに問題はありません。ただ、お互いにすり合わせは必要ですよね。

カウンセリングの比重はもちろん、スタイリストと意見が分かれた時には「(カラーにおいて)僕がやった方が可愛くなるのになぁ」ともやもやすることもあったと思います。

また、お客様目線で言えば、スタイリストとカラーリストのスケジュールが合う日を選んでもらう必要もあり、煩わしさを感じさせてしまっていることは残念に思うこともありました。

熱量と信念を突き通せる自分だけのスタイルを

ーー「カラーリストを目指したい!」という方も増えていると思いますが、アドバイスなどはありますか?

「カラーリストになろう!」なんて言いません。むしろお勧めはしません。

僕は、カキモトアームズで若い頃からお客様を持つことができヘアショーにも出させてもらいました。そしてベルでも、カラーリストとしてブランドの波に乗せてもらい薬剤開発までやらせてもらいましたし、20代の頃からセミナー講師だって担当させてもらいました。

僕は、ものすごく良いレールに乗せてもらっていたと思っています。だから、僕と同じ経験をみんなができるわけではないんですよ。

売上だけを見れば、カットもできるスタイリストの方がお客様もたくさんつくだろうし、そういう意味では給与面でも伸ばしやすいと思います。

カラーリストの場合は、カラーだけで「絶対にこの人じゃないといけない!」と思わせないといけないので、技術はもちろんのこと接客だって必死に行わないといけません。

もっと言えば、薬剤の進化により誰でも様々なカラーを出しやすくなり、その中からカラーリストとして差別化して、研ぎ澄まされた存在にならないといけません。

そして何より、カラーリストとして生きていくと、カラーリストから離れることができなくなります。

これだけ言っても「それでも目指す!」ということであれば、応援したいですね。

僕はカラーが大好きで、その楽しさを色々な人に知って欲しいと思いカラーリストになりました。好きなことにずっと携われるということは、幸せなことだしモチベーションだって高く保てることなんですよ。

そして、その熱量は誰よりもちゃんとお客様に伝わるはずです。

カラーリストが代表を務めるヘアサロンの形

ーーやはりカラーに注力したヘアサロンを目指していくのでしょうか?

カラーを推しているのはもちろんですが、お客さんが友達に紹介したくなるような居心地の良いサロンにしたいと思っています。

なので「空間体験価値を高める店づくり」という部分に注力し、お店に遊びに来るような感覚で利用いただけると嬉しいですね。

例えば、サロン内の装飾は2ヶ月に1回のペースで様々なブランドとコラボし、何回も足を運んでくれるお客様が飽きないように、新しい体験ができるような空間を用意しています。

今は、ヘアサロンに行くことは気分転換も兼ねているケースも多いので、そういったお客様に楽しんで欲しいと思っています。

ーーサロンスタッフの教育についてはどのように?

すでに各々が得意とする技術を持っているスタイリストが在籍しているので、細かい技術指導というのは私からはしません。むしろ、カットについては、私よりも彼らの方が技術を持っていますしね。

今のところ中途採用のみで新卒採用の予定がないので、各々が今までに学んできた魅力的な部分をサロン内でお互いにブラッシュアップできるようにしています。また、各スタッフがマンツーマンでお客様と接してもらうことも徹底しています。

そして、一番重要なのは「お客様の期待値を超えるためにどうするのか」という部分を意識しているかどうかですね。

カラー1つとっても、お客様の希望を叶えるだけでなく、それは似合わせも含めしっかりとお客様の期待値を越えた結果なのか、スタッフに確認することはあります。

あとは、教育という側面ではありませんが、スタッフ一人一人のモチベーションを保つことも重要だと思っています。

なので、美容に関係ないことであっても仕事をアクティブにしてけるような「自分のやりたいこと」を積極的にアピールして、自分なりの活動を楽しんで欲しいなと考えています。

ーー最後に、いちオーナーとしてのコメントをいただけますか?

カラーリストでもオーナーでも「お客様に似合うスタイルを提供する」というのが大前提です。

カラーにせよヘアスタイルにせよ、流行らせようと思ったらいくらでもやり方はあります。でも、それはヘアサロン目線であって、お客様目線ではありません。

サロンとして売りたいものや自信のある技術もあると思いますが、全てのお客様に必要なわけではありませんよね。

自分の持っている技術をしっかりと噛み砕いて、お客様ベースで提案できる「お客様に寄り添うカラーリスト」であり「お客様に寄り添うヘアサロン」であり続けたいと考えています。

norm 樺井 英樹

「norm(ノーム)」代表。感覚的なカラーも理論的なカラーも備えもつカラーリスト。

都内2サロンを経て専門同級生である志茂良信と独立し、サロンワークではお客様の個性を活かしたカラーで絶大な支持を受けている。

薬剤開発に携わり、全国各地やアジア各国や専門学校でセミナーや講習を行い美容師のファンも多く、業界誌や一般誌においても絶対に似合わせるヘアカラーが評価を受けている。

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